昔、その当時の自分を取り巻く状況はどうにも閉塞的であったにも関わらずとんでもなくいい酒を過ごした店というのがあって。
ちょうど6月6日だった。酒とあて自体が大変に旨かったのは確かなのだがその時そこまでいい気分を味わえたのはそのためであるのか、それとも他の付帯状況が良かったのかはよく覚えていない。
翌日原因不明の蕁麻疹に見舞われたことも何やら印象深い。その日は飲み過ぎてすっかりへろへろになり同行の友人宅に泊めていただいたのだが3年ほどの付き合いの中でそんなこと自体が初めてで、なにやら遠慮が働いてひとり目覚めた早朝にそっと抜け出して帰った。半日もすると両腕に蕁麻疹が現れて真っ赤に染まり、訊けば友人にも同じ症状が出たといい。ならば普段と枕を違えた環境のせいではなくてあの店で出てきた何かに由来するものなのかも、と思えどもどうしても店を憎む気にはなれぬ。それほどにいい夜であった。
「もうあそこはやめとこう」などとは欠片も思わなかったのだがやがてその友人と疎遠になるなどして街自体へ足の向くことも減り、とうとう2度目の訪問はないままになっていた。
口にした酒の銘柄をぐぐる神様に尋ねてみてもいまいち手応えがないので、きちんと確認したくて件の店へと足を向けてみたところ、既にその店は存在しないものとなっていた。
あれから4年も経っているのだから十分予想できたことではあるのだが。
一方、初めて好きになった酒というのがあり。学生の頃にその当時の友人の薦めで飲んで気に入ったもので、自分の中の辛口冷酒志向のはしりである。その町を離れてからはどこで飲めるものやらとんと見かけなくなった。銘柄以外の細かい情報は何も覚えていない。その大学の近所で造られているという話であったが、そのあたりはぐぐる神に尋ねてもこれまた何の情報も得られない。まるで違う地方で同じ名前の酒がヒットする。実はそれがそうなのか、あるいは違うものなのかをきちんと確かめられぬままに月日が過ぎている。
大抵のことはぐぐる神様が教えてくれるが、おしえてくれないこともある。