呪(まじな)い石・II

章吾の左手の掌はいつも皮が剥けて真っ赤になっていた。何かの皮膚炎なのだが薬をいろいろ変えても効かないのだという。
「でも、手をつないでもうつらないからね。章吾と仲良くしてくれるとうれしいわ」
章吾の母親は、隣に引っ越してきたあけみが初めて遊びに行ったとき、そんな風に言った。

章吾とあけみはまだ5歳だった。章吾はその手のせいで、同い年くらいの男の子達からはからかわれたり少しいじめられたりしているようだった。そういうこともあり、また本当に仲が良かったこともあり、章吾とあけみはいつも一緒に遊んでいた。

そんなある日、あけみは友達のお姉さんから、お稲荷様にあるという石の話を聞かされた。

「おねがいごとが、なんでもかなうらしいんだよ」
「うそだあ」
「ほんとだもの。おじいちゃんがげんきになってびょういんからかえってきたもの」
「…なおるの?びょうき」
「なおるよ!」

一人で行くにはお稲荷様は遠い。
あけみはそのお姉さんに一緒に来てもらい、お稲荷様の石に、祈った。

(しょうちゃんのてがなおりますように。わたしがかわりになってもいいから、しょうちゃんのてがなおりますように)

あけみが帰ってくると、章吾が家の前に座りこんでいた。

「しょうちゃん」
「あけみちゃん、どこにいってたの」
「…なんでも、ないよ…」
「なんだよ、それ!もうしらない!」
章吾は怒りながら自分の家に入っていってしまった。
あけみは、べそをかいた。

やがて時が経った。
幼かった二人も中学生になり、やがて互いを異性として意識し、付き合うようになっていた。
そんなある日のこと。
「…あのさ」
「ん?」
「別れねえ?おれら」
「…なんで」

二人が小学校にあがった頃、新しく使われるようになった薬で章吾の手はきれいに治っていた。
男の子達からからかわれることもなくなった。

「お前の、手が」
あけみの右掌には何故かその薬は効かなかった。

「普段はいいんだけどさ…それで…あれを触られるのだけは、ちょっと」

あけみはゆっくりとその掌に視線を落とし、それから章吾の顔を見ないで、満足そうに笑った。


モドル