| 呪(まじな)い石・I |
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美奈子の実家の近くにはお稲荷様がある。中学以来の友人である利江子から先日、そのお稲荷様に関して奇妙な噂を聞かされた。なんでも、どんな願いでも叶えてくれるというのである。
父親の癌が快癒した話や、浮気していた恋人が相手と別れて戻ってきた話、難易度の高い資格試験に一発で合格した話など。どれもこれも眉唾ものの話だが、実家近くに住む友人達が実際にそれを体験しているとあれば話のタネにと聞く分には十分興味をそそられるものだった。
「ちがうちがう、お稲荷様そのものじゃないんだってば」
利江子に電話してその話を出したところこんな風に言われた。
「あれ、そう言わなかったっけ?」
今度祥子も交えて会おう、と言って美奈子は電話を切った。
美奈子は結婚して今年で5年目になる。夫婦仲は悪くないし、向こうの両親ともうまくやれていると思う。子どもはまだ居なかった。夫の康弘が先にマイホームを欲しがっていたからだ。
「マイホーム、って言ってもねえ…」
二人で十分話し合って決めたことの筈だったが、康弘が仕事に力を入れていて帰りも遅く、子どもが居るわけでもなしにパートから帰ったあとの一人きりの長い時間を過ごす日々は、それが常になってなお寂しいものであった。だがなかなかそれを口にできるわけではないのもまた確かだった。
「…ダメモトってやつで」
翌日はパートが休みだったので、美奈子は昼の間に実家の方までやって来て、例のお稲荷様へ赴いて石を探してみた。思っていたより簡単にそれは見つかった。辿り着きさえすれば一目でそれと分かるほどこんもりと盛られた土の上に乗せられて鈍い艶をたたえている丸い石。それはまるでここに真に祀られている神でもあるかのように、どっしりとその場所に落ち着いていた。
石に手を合わせる。
しばらくそうして祈っていたが、不意に現実に引き戻されたような気分になり、美奈子は踵を返した。
お稲荷様の石段へ戻り、それを降りきったところで美奈子の携帯が鳴った。
知らない一般電話からだった。宣伝業者か何かかとも思ったが、鳴りやむ様子もない。
康弘が社用で乗っていた車が玉突き事故に巻き込まれ、目下意識不明の重体であると。
「ちょっと…やめてよ…!」
康弘が入っている生命保険の災害死亡時の保険金は5千万である。 |