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ぺたぺたとスリッパの音が背後から響く。
「三島ー」
やっぱり先生だ。由利は声の主へと向き直る。
「また給湯器の調子悪くてさ。一緒に来てくれないか」
「私は修理屋じゃないです。業者呼ぶか新しいの買うかして下さいよ」
「三島が来るだけで直るんだからいいじゃないか」
ツンケンした口調に動じもせず、
化学教師は白衣をはためかせながらぺたぺたと理科準備室へ向かう。
由利はおとなしく後をついていく。黒縁眼鏡の奥の笑い皺が好きだ。
「私が行くと正常に動くのなら、つまり私は不調な状態を観測することが不可能なんですよ」
「うん?」
「ほんとは不調ではないかもしれないということです」
「嘘ついてどうするんだよー」
嘘でいいのに。
由利がボタンを押すと、給湯器は熱湯を勢い良く吐き出した。
「ほら、動いてるじゃないですか」
「三島が来たからに決まってるじゃないか。先生がコーヒー淹れてやるから機嫌直して飲んでいきなさい」
由利は棚に並んだビーカーに視線を投げた。
ぴしっ。
あ、また割っちゃった。ごめんね先生。
私には壊す力しかない筈なんだよね。なんで給湯器が直るのかな。ふしぎ。
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