壊れた人形

雪が積もり始めていた。あの日と同じホワイトクリスマス。

私は賑わう町に背を向け、墓地へと向かった。
今日は兄の命日なのだ。

幼い頃両親を亡くした私達はとても仲が良かった。
私に不自由をさせたくないと
進学を諦めて働いていた兄のためなら
何だってしてあげたかった。

知らぬうちに唇を強く噛んでいた。
厚みを増した雪を踏み進むと、墓の合間に人影が見えた。

予想はしていた。
兄の彼女だったひとが墓の前にたたずんでいる。
何時間前からここに居たのだろう、セーラー服の細い肩に雪が積もっていた。
彼女の時間はあの日から止まったままだ。もう高校生ではないのに。

声をかけると、
陶器人形の如く滑らかで整った顔がゆっくりこちらを向いた。

私は彼女に近づき、雪をそっと払った。

その大きな瞳は私に向けられているが焦点を結んでいない。
私が誰なのかさえ忘れてしまったようだ。

けれど私は 「妹と私とどっちが大事?」という
あの悲鳴のような叫びと
私を庇って橋から冷たい川へ落ちていく兄の
悲しげな笑顔をこの日のたびに思い出すのだ。


モドル