ヘリコプター

今の恋人と知り合った頃のことだ。まださほど相手を意識してもいなかったのか、「過去最も印象深かったデート」について互いに語り合ったことがある。

「ヘリコプターに乗って、夜景見るってやつあるじゃない」
「うん」
「あれをやったの。結構奮発して」
「えー、すごいね」
「うん、今思うと、終わるって感じてたからそういうことしたのかも。その後すぐに別れちゃったから」

「終わるって感じてたから」と彼は言ったが、私はヘリコプターに乗って夜景を見るようなデートは一度もしたことがなかったから、ほんの少し、それに憧れを抱いた。とはいえそのまま口にするにはあまり適切な感想に思えなかったのでしばらく返す言葉を探していると、「あ、こんな話してごめんね」と彼が事のほかおろおろし始めて、その様子が本当に申し訳なさそうだったので、その時少し好きになったのかな、と今となっては思う。

その後しばらくして彼と付き合うことになった。手をつないで街を歩くような普通のデートを繰り返した。それで十分だったし、幸せだった。やがて内面に深く入り込んだ話もするようになり、それにつれていさかいの起きることも勿論あった。けれど少しずつそうしたぶつかり合いをすることも減っていき、仲直りするたびに理解は深まっていった。

慣れると共に会う回数は減った。一緒に居る時の何でもない時間、例えばレストランで料理が来るのを待つ間、以前ならそんなことを考えもしなかったのに話題を探すようになってきた。それはいい。多分よくあることだし、大したことじゃない。そう思うようにしてきたが、そうした状態に少し疲れを感じないわけでもなかった。

そんなある日、いつものように彼と過ごしながら、途切れた会話をもて余すように雑誌をぱらぱらとめくっていた。男女用の相性診断が載っていた。ふと、やってみたくなった。

「ねえ、これちょっとやってみてよ」
「相性診断?」
「うん、付き合ってる人とやってみたらどうなるのかなと思って。こういうのって大体、イイ感じになってきた頃にやって盛り上がったりするじゃない?」
「そういえば、お前とこういうのやったことなかったな」

その瞬間、私は彼が話してくれた「ヘリコプターのデート」のことを不意に思い出した。……ああ、そういうことだったのか。今まで私達がこの手の相性診断をやったことがなかったのは、そもそも必要としなかったからだ。けれどこれは、特別で楽しいと分かっているイベントとは違う。悪い結果が出たときも、まだ私達は笑い飛ばせる。きっと。

「ほら、早くやってみてよー」
「はいはい」


モドル